犬のニオイが気になって、シャンプーの回数を増やしてみた——。それでも変わらなかった、あるいはかえって皮膚の調子が悪くなった、という経験はないでしょうか。

理由があります。犬の体は、人間とはほぼ逆の仕組みで汗をかきます。そして構造上、体臭が出るようにできています。ゼロにすることはできませんが、減らすことはできます。

この記事では、獣医師監修の情報をもとに、汗の仕組みからケアの正しい頻度までを整理します。あわせて、ニオイが病気のサインになっている場合の見分け方もまとめます。

※本記事は日常のケアについて解説するもので、獣医学的な診断・治療の代わりになるものではありません。気になる症状があるときは動物病院にご相談ください。

犬の汗の仕組みは、人間とほぼ逆

汗を出す汗腺には2種類あります。アニコム損保の獣医師監修記事は、それぞれをこう説明しています。

  • エクリン腺——「ほぼ水分でさらさらとした無臭の汗を分泌します」。人が暑いときに汗だくになるのはこれで、体温調節の役割を担う
  • アポクリン腺——「脂質やタンパク質など臭いのもととなる成分を多く含んだ粘度の高い汗を分泌します」。毛穴につながっていて、皮脂と混ざり合いながら分泌される

そして分布が、人と犬でまるで違います。

エクリン腺(無臭の汗) アポクリン腺(臭いの元)
全身にある 耳の中や脇など一部だけ
肉球にしかない ほぼ全身

同資料は、犬はエクリン腺が肉球にしかないため「暑くても人のように全身汗だくになることはありません」とし、一方でアポクリン腺は「犬ではほぼ全身にあるため、アポクリン腺からでる汗が体臭の原因になることがあります」と説明しています。

そのうえで、生理的な体臭の原因を「どうぶつの体から分泌される汗や皮脂、老廃物などが、皮膚に住む細菌によって分解されて発生する成分」としています。

人間の「足」と、犬の「全身」は似ている

ここで当サイトの足と靴のニオイの原因と対策と並べると、構造がよく見えてきます。

人間の足裏はエクリン腺が集中していて、汗そのものは無臭です。それでも臭うのは、汗と古い角質を菌が分解するからでした。犬の場合は、その「菌のエサになる成分」を全身から出していることになります。

だから「洗えば消える」という発想が成り立ちません。洗った直後から、また分泌が始まります。目指すのは無臭ではなく、菌が増えにくい状態を保つことです。

ニオイの場所で原因を切り分ける

「犬が臭い」とひとくちに言っても、どこが臭っているかで話が変わります。まず特定してください。

臭う場所 考えられること まずやること
体全体 皮脂と細菌による生理的な体臭/皮脂の分泌異常 ブラッシングとシャンプーの頻度を見直す
蒸れ/外耳炎などの炎症 状態を見て、異常があれば受診
食べかす/歯垢・歯石/歯周病/全身の病気 歯みがきの習慣化
お尻 肛門腺の分泌液がたまっている しぐさを観察し、主治医に相談
目のまわり 涙や目やにで濡れて雑菌が繁殖 こまめに優しく拭く/受診

体全体以外は、ケアの問題ではなく体の問題である可能性があります。とくに耳と口は、後述する受診の目安を確認してください。

日常ケアの「正しい頻度」

ここがこの記事でいちばん実用的な部分です。同資料は、ケアの頻度を具体的な数字で示しています。

ケア 頻度の目安 補足
ブラッシング 少なくとも2〜3日に1回 長毛の犬や換毛期はできれば毎日
シャンプー 1か月に1回程度で十分
(皮膚が健康な犬の場合)
皮膚病や皮脂の多い犬は主治医の指示に従う
歯みがき 理想は毎食後/難しければ最低3日に1回 歯垢が歯石になるのは3日
耳掃除 基本的に必要なし
週1回の状態チェック
たれ耳・耳毛の多い犬は定期的な掃除が必要なことも

シャンプーは月1回で十分

これが意外に思われるところです。同資料は「シャンプーは、皮膚が健康な犬であれば、1ヶ月に1回程度で十分です」としています。

ニオイが気になると洗う回数を増やしたくなりますが、頻度を上げれば解決する話ではありません。皮膚病や皮脂の多い犬では薬用シャンプーでこまめに洗う必要がある場合もあるとされていますが、それは「治療の一環」であり、主治医の指示に従うべきとされています。自己判断で回数を増やすのは避けてください。

一方でブラッシングは2〜3日に1回と、シャンプーよりずっと高頻度です。汚れや抜け毛を取って皮膚の健康を保つ効果があり、室内に飛散する抜け毛を減らして部屋の清潔を保つことにも役立つとされています。洗う回数を増やすより、ブラシをかける回数を増やすほうが理にかなっています。

「歯石になるまで3日」が歯みがきの根拠

歯みがきの頻度に「3日」という数字が出てくるのには理由があります。

同資料によれば、食べかすが歯垢となり、それが歯石に変化するのに要する期間は3日とされています。そして「歯石になってしまうと歯みがきでは取り除くことができません」

3日に1回という目安は、歯石になる前に落とすための期限だということです。理想は毎食後ですが、間隔を空けるとしても3日が限界、と覚えておけます。

耳掃除は「しなくていい」

これも見落とされやすい点です。同資料は「本来、犬の耳には自浄作用があるため、特に耳にトラブルのない犬の場合は、基本的に耳掃除は必要ありません」としています。

やるべきなのは掃除ではなくチェックです。週1回程度状態を確認し、ふだんから耳を触られることに慣らしておくとよい、とされています。良かれと思って毎日いじるのは、むしろ避けたほうがよいということになります。

【重要】受診すべきサイン

ニオイは、体調の変化に気づく手がかりにもなります。消臭やケアで対処する前に、次のような様子がないか確認してください。

耳——これは自分で触らない

同資料は、次の場合について「お家では触らずすぐに受診するようにしましょう」と明記しています。

  • 黄色や黒の耳垢がたくさん出てくる
  • 赤みや腫れがある
  • 痛みや痒み、強い臭いがある

細菌や真菌、ダニなどの感染で外耳炎・中耳炎・内耳炎を発症すると、膿や分泌物が出て臭いの原因になるとされています。耳が強く臭うのは、ケア不足ではなく炎症のサインである可能性があります。

口臭——臭いの質でヒントが変わる

同資料は、口臭の原因として食べかすや歯垢・歯石・歯周病のほか、全身の病気も挙げています。参考として、臭いの質と結びつけられているものを紹介します。

口臭の質 同資料が挙げている可能性
甘酸っぱいような臭い 糖尿病によるケトン臭
糞便のような臭い 便秘や腸閉塞で腐敗物質が増えている場合
生臭いような臭い 消化不良で腸内のガスが呼気に混ざる場合
腐敗臭のような臭い 口腔内腫瘍からの出血や組織の壊死

肝機能や腎機能の低下でも口臭が強くなることがあるとされています。これは診断ではなく、受診を判断するための材料です。「歯みがきをしても口臭が改善しない」場合は、口の中だけの問題ではないかもしれません。

お尻——しぐさを見る

お尻を気にして舐めたり、床にこすりつけたりするしぐさは、肛門腺の分泌液のたまりすぎや肛門嚢のトラブルが疑われるとされています。定期的な肛門腺絞りが必要なこともあるため、主治医に相談してください。

尿——強くなるのも、弱くなるのもサイン

犬の尿の臭いの原因はアンモニアです。同資料は、健康な犬であれば排泄直後の尿はそれほど強く臭わず、時間がたつと尿中の「尿素」が雑菌や酵素によって分解されてアンモニアになるため臭いが強くなると説明しています。

つまり「排泄直後から強く臭う」のは通常とは違う状態ということになります。

変化の方向にも注意が要ります。膀胱炎など尿路感染症では細菌によりアンモニアが多く産生されて強くなり、重度の糖尿病では甘酸っぱい臭いになることがあるとされています。一方で慢性腎臓病などで多飲多尿になると、薄い尿を大量に排泄するため臭いが弱くなることもあるとのことです。

急に強くなった、逆にほとんど匂わなくなった——どちらも受診を検討する理由になります。

犬種によって出やすさが違う

同資料は、とくに注意してお手入れが必要な犬種の特徴を挙げています。

特徴 犬種の例 理由
しわが多い ブルドッグ、フレンチ・ブルドッグ、パグ しわの間に皮脂や汚れがたまり雑菌が繁殖しやすい
涙焼けしやすい マルチーズ、トイ・プードル、シー・ズー、チワワ 目の周りが濡れた状態になりやすい
皮脂分泌が多い アメリカン・コッカー・スパニエル、シー・ズー 体臭が強くなったり脂漏性皮膚炎を起こしやすい
たれ耳 ビーグル、アメリカン・コッカー・スパニエル 耳の通気性が悪く外耳炎を起こしやすい
よだれが多い セント・バーナード、ニューファンドランド、ブルドッグ 口の周りが濡れて雑菌が繁殖しやすい

共通しているのは「濡れた状態が続く場所がある」という点です。しわ、目の下、耳の中、口の周り——いずれも水分がとどまる場所です。菌が増える条件は、犬でも人でも変わりません。

部屋に残るニオイの対処

犬のニオイは、カーペットやソファ、寝床などの布製品に移ります。ここはニオイの性質で使い分けてください。

  • 尿の臭い(アンモニア=アルカリ性)→ 酸性のクエン酸で中和
  • 皮脂の酸化臭(酸性)→ 弱アルカリ性の重曹で中和

判断は「ツンとする→クエン酸、脂っぽい・酸っぱい→重曹」で切り分けられます。布の洗い方や換気、空気清浄機の限界まで含めた部屋全体の対策はペットのいる部屋のニオイ対策で扱っています。

そして猫も一緒に飼っている場合は、消臭剤の成分に注意が必要です。猫は精油の成分を代謝しにくいため、精油配合の芳香剤や消臭スプレーは避けるべきとされています。詳しくはペットのトイレのニオイ対策にまとめました。犬には問題のないものが猫には危険な場合があるので、多頭飼いでは家全体で判断してください。

✍️ ひとこと

いちばん印象に残ったのは、シャンプーが月1回で十分とされている一方で、ブラッシングは2〜3日に1回と勧められていたことでした。洗う回数より、ブラシをかける回数のほうが多い。ニオイが気になると洗いたくなりますが、力の入れどころが違ったわけです。

そして「耳掃除は基本的に必要ない」も意外でした。やらないほうがいいことを知るのも、ケアの一部なのだと思います。

— ニオラボ編集室

よくある質問

シャンプーの回数を増やしたら、かえって臭う気がします

皮膚が健康な犬であれば月1回程度で十分とされているので、回数を増やすことが正解とは限りません。洗いすぎると皮膚に必要な皮脂まで落ちてしまう可能性があります。皮膚の状態が気になる場合は自己判断で頻度を変えず、動物病院に相談してください。まずブラッシングの頻度を上げるほうが、リスクがなく効果も期待できます。

人間用の消臭スプレーを体にかけてもいいですか?

ペット用と明記されていない製品を体にかけるのは避けてください。犬は体を舐めるので、皮膚から入るだけでなく口からも入る前提で考える必要があります。体のニオイはケアで対応し、消臭剤は空間や布製品に使うのが基本です。

濡れた犬が強く臭うのはなぜですか?

この点について同資料に直接の説明はありませんが、示されている仕組みから考えると理解できます。体臭の元は皮脂と、それを分解する細菌が出す成分です。水分が加わることでそれらが広がり、揮発しやすくなるためだと考えられます。だからこそ、濡れたあとにしっかり乾かすことが大事です。生乾きのまま放置すれば、菌が増える条件そのものになります。

換毛期はどうすればいいですか?

同資料は、長毛の犬や換毛期の犬についてはブラッシングをできれば毎日行うよう勧めています。抜け毛は皮膚の上にとどまると蒸れの原因になり、室内に飛散すれば部屋のニオイにもつながります。換毛期はブラッシングの回数だけ増やせば十分で、シャンプーの回数を上げる必要はありません。

部屋の換気だけでは足りませんか?

換気は有効ですが、それだけでは布製品に染み込んだ分は残ります。発生源(犬本体)のケア・布製品の洗濯や中和・換気の3つがそろって初めて落ち着きます。どれかひとつでは戻りきりません。

まとめ

  • 犬の汗の仕組みは人とほぼ逆。無臭のエクリン腺は肉球だけ、臭いの元になるアポクリン腺がほぼ全身にある。だから体臭は構造上のもので、洗ってもゼロにはならない
  • ニオイの場所で切り分ける。体全体以外(耳・口・お尻・目のまわり)は、ケア不足ではなく体の問題である可能性がある
  • 頻度の目安——ブラッシング2〜3日に1回、シャンプーは月1回程度で十分、歯みがきは最低3日に1回(歯石になるのが3日)、耳掃除は基本的に不要
  • 耳に黄色や黒の耳垢・赤み・腫れ・強い臭いがあれば、家では触らずすぐ受診
  • 尿は強くなるのも弱くなるのもサイン。排泄直後から強く臭うのは通常とは違う状態
  • 部屋の対処はツンとする→クエン酸、脂っぽい→重曹。猫が同居しているなら精油に注意

まずはブラッシングの回数を数えてみてください。2〜3日に1回に届いていないなら、そこがいちばん伸びしろのある一手です。

参考にした情報

本記事の内容は、公開されている情報をもとに構成しています。獣医学的な診断・治療の代わりになるものではありません。犬種や個体によって適したケアは異なります。体調や症状が気になる場合は動物病院にご相談ください。