久しぶりに加湿器を出して、スイッチを入れた。出てきた風が、なんだか臭い。

ここで多くの人が買いに行くのがクエン酸です。加湿器の掃除といえばクエン酸——そう覚えている人は少なくありません。

ところが、メーカーの手入れ説明を読むと、「におい」に割り当てられているのはクエン酸ではありませんでした。

水あかが取れにくい・においがするときは重曹(シャープ)

ダイニチ工業も同じです。「吹き出す風が臭かった場合は、ぬるま湯に重曹を溶かした重曹水に浸け置きするのが有効です」としています。

クエン酸が不要という話ではありません。相手が違うのです。順に見ていきます。

まず切り分ける——外して運転するとニオイは消えるか

掃除を始める前に、確認しておくと手間が減る手順があります。ダイニチ工業がFAQで示している切り分けです。

吸気グリルと気化フィルターを外した状態で運転してみる。それだけです。

外して運転すると 原因はどこか やること
ニオイがしない フィルター・トレイなど洗える部分 この記事の手順で洗う
それでもニオイがする 本体内部 メーカーに相談する

後者だった場合、自分で分解するものではありません。ダイニチ工業はこう書いています。

「本体内部の汚れが原因のため、技術者による分解・清掃が必要です。なお、内部分解・清掃は保証期間内でも有料とさせていただきます」(ダイニチ工業)

有料と明記されている作業を、洗剤を足して粘っても届きません。先に切り分けておけば、無駄な時間を使わずに済みます。

ニオイの正体は「水あか」ではない

加湿器の中には、性質の違う2種類の汚れが溜まります。ここが混ざるから、クエン酸と重曹の話がややこしくなります。

汚れ 正体 性質 臭うか
白い固まり・水あか 水道水のミネラル分 アルカリ性 臭わない
ぬめり・カビ カビや菌 酸性寄り これが臭う

ダイニチ工業は、水あかについてこう説明しています。

「水アカの成分はアルカリ性のため、酸性のクエン酸で中和してお掃除をすればすっきり取れます」(ダイニチ工業)

そしてニオイについては、別の記述があります。

「加湿器の中でカビや菌が繁殖すると、加湿器からイヤなニオイが漂い、吹き出す空気が臭くなる」(ダイニチ工業)

白い固まりは、放っておいても臭いません。臭っているのは、その隣で増えている菌のほうです。だから水あかだけを溶かしても、ニオイは残ります。

当サイトでは、クエン酸が効くのはアルカリ性のニオイだけ、重曹が効くのは酸性のニオイだけ、と整理してきました。加湿器は、その原則がそのまま当てはまる場所です。

クエン酸と重曹、メーカーの使い分け

シャープは、加湿フィルターの手入れで2つを明確に分けています。分量とつけ置き時間まで指定されています。

症状 使うもの 分量 つけ置き
白い固まりが取れにくい クエン酸 水1Lあたり約6g 約2時間
水あかが取れにくい・においがする 重曹 水1Lあたり約36g 約30〜60分

重曹のほうが、必要な量が6倍です。「少し入れておけばいい」ではありません。

両方に心当たりがある場合の順番も決まっています。

「汚れやにおいが取れにくいときは、クエン酸で洗い十分にすすいだ後、重曹で洗ってください」(シャープ)

同時ではありません。クエン酸は酸性、重曹はアルカリ性です。混ぜれば中和して、どちらの働きも失われます。重曹とクエン酸を混ぜても消臭にはならないのは、加湿器でも同じです。

ダイニチ工業のクエン酸洗浄は、水4Lあたり約25g。1Lあたりに直すと約6gで、シャープとほぼ同じ濃度です。溶かすのは40℃程度のぬるま湯、つけ置きは30分〜2時間とされています。

方式で、洗う場所が変わる

加湿器は方式によって、水がどこを通るかが違います。当然、汚れが溜まる場所も変わります。ダイニチ工業の説明を整理すると、こうなります。

方式 主に洗う場所 メーカーの記述
気化式 トレイ・気化フィルター 「2週間に1度程度、本体から外して水洗い」
ハイブリッド式 気化フィルター・トレイ 「2週間に1度程度、本体から外して水洗い」
スチーム式 タンク 「ぬるま湯で溶かしたクエン酸を注いで浸け置き」
超音波式 超音波発生ユニット・蒸気口 「外してお手入れできるパーツは外して」

気化式とハイブリッド式はフィルターが主役、スチーム式はタンクが主役です。持っている機種がどれか分からないまま手順だけ真似ると、いちばん汚れている場所に手が届きません。

頻度は、メーカーによって違う

ここは注意が必要な部分です。加湿フィルターの手入れ頻度について、2社の指定が一致していません。

メーカー 加湿フィルターの手入れ 前提
シャープ 2週間に1回程度 —
パナソニック 約1ヵ月に1回 1日8時間運転の場合

倍の差があります。どちらかが間違っているのではなく、機種の構造と前提が違います。お使いの製品の取扱説明書に従ってください。

ただしパナソニックは、前提が崩れたときの但し書きも付けています。

「汚れ具合は水質により変わるため、ニオイが気になる場合やタンクの水が減りにくい場合は、1ヵ月以内でもお手入れをしてください」(パナソニック)

臭ってきた時点が、手入れの時期ということです。カレンダーより、鼻のほうが正確です。

一方で、タンクの水は方式に関係なく毎日です。ダイニチ工業は「水は毎日替えるのが基本」としています。

【重要】水のつぎ足しをしてはいけない

ここからは、ニオイより優先度の高い話です。

加湿器の水を、減った分だけ足していませんか。大阪健康安全基盤研究所は、はっきり否定しています。

「タンクの水は毎日新しい水道水に交換し、水のつぎ足しはしない」(大阪健康安全基盤研究所)

理由は、残った水でレジオネラが増えるためです。同研究所は、実際に起きた事故を記録しています。

「2018年1月、大分県の高齢者施設において、加湿器が原因で80〜90代の男性3名がレジオネラに感染し、うち1名が死亡しました」(大阪健康安全基盤研究所)

加湿器が撒いているのは、水そのものではなくミストです。タンクの中身は、そのまま吸い込む空気になります。ここが、ほかの水まわりと決定的に違う点です。

方式によるリスクの差も示されています。

「レジオネラは60℃では5分で死滅するので、タンク内の水が加熱されるスチーム式やハイブリッド式の加湿器は、レジオネラ汚染のリスクが低いとされています」(大阪健康安全基盤研究所)

裏を返せば、水を加熱しない超音波式・気化式は、タンクの管理がそのまま結果に出ます。ただし「ハイブリッド式」の中身はメーカーによって異なり、加熱するのが水か風かも製品次第です。自分の機種がどちらかは、取扱説明書で確認してください。

そして、使い終わりの扱いです。

「使用後はタンク内の水を抜き、よく乾燥させましょう」(大阪健康安全基盤研究所)

濡れたまま置けば菌が増える——生乾きの洗濯物や浴室の排水口とまったく同じ話です。乾かすことが、いちばん安上がりな消臭です。

やってはいけないこと

メーカーが明確に禁じている事項があります。ニオイを消そうとして製品を壊すのは、いちばん避けたい結末です。

  • 重曹・クエン酸以外を使わない——シャープは「変形・変色・割れ(水もれ)の原因になります」としています
  • フィルターに力を加えない——型くずれのおそれがあります(シャープ)
  • ブラシでこすらない・洗濯機で洗わない——パナソニックは「ぬるま湯で押し洗い」を指定しています
  • 乾燥機で乾かさない——「縮みの原因となる」(パナソニック)

塩素系漂白剤を入れたくなるかもしれませんが、指定されているのは重曹とクエン酸だけです。強い手段に頼るとモノのほうが先に壊れる——水筒や洗濯槽でも繰り返し確認してきた構図です。

洗ってもニオイが取れないとき

手を尽くしても戻らないことがあります。そのときは、手入れではなく交換の段階です。判断基準は両社とも同じでした。

「お手入れしてもにおいや加湿量がお手入れ前と変わらない」場合は「加湿フィルターを交換してください」(シャープ)

「お手入れをしてもニオイが取れないときやタンクの水が減らないとき、フィルターの傷みがひどいときは、交換してください」(パナソニック)

パナソニックは交換の目安も示しています。約10年——ただし「1日8時間運転で、約1か月に1回のお手入れをしている場合」という前提付きです。

手入れをしていなければ、10年もちません。そして「タンクの水が減らない」は分かりやすいサインです。フィルターが目詰まりして、水を吸えなくなっている状態だからです。

ひとこと

調べていていちばん引っかかったのは、クエン酸と重曹の担当が、世間の認識と逆だったことです。

「加湿器=クエン酸」はかなり広く定着しています。実際クエン酸洗浄という言葉もメーカー自身が使っています。ただしそれは白い固まりを溶かす作業であって、ニオイを消す作業ではありませんでした。臭っているのは菌のほうなので、相手が違えば効かないのは当然です。

もうひとつ。つぎ足しです。水が減ったら足す——これ以上に自然な動作はありません。それを公的機関が名指しで止めている。しかも実際に亡くなった方がいる。

加湿器は、タンクの中身をそのまま空気にして部屋に撒く装置です。そう考えると、毎日水を捨てて乾かすという手間は、決して過剰ではないと思えてきます。

— ニオラボ編集室

よくある質問(FAQ)

Q. 水道水ではなく浄水やミネラルウォーターを使ってもよいですか?

水道水を使ってください。大阪健康安全基盤研究所は「毎日新しい水道水に交換」としています。

水道水には塩素が含まれていて、それ自体が菌の増殖を抑えます。浄水器を通した水やミネラルウォーターは塩素が抜けているため、タンクの中で菌が増えやすくなります。「きれいな水のほうがよさそう」という直感が、逆に働く場面です。

Q. アロマオイルを入れてもよいですか?

対応機種以外では入れないでください。加湿器はアロマを前提に作られているとは限らず、樹脂部品が傷む原因になります。

そもそもニオイの原因が菌であれば、香りを足しても元は残ったままです。車のエアコンで芳香剤を足す前にやることがあるのと同じ順番です。

Q. 電源を切っている間もタンクに水を入れたままで大丈夫ですか?

避けてください。止めている間は水が動かないため、むしろ増えやすい状態です。

「使用後はタンク内の水を抜き、よく乾燥させましょう」(大阪健康安全基盤研究所)が原則です。外出中や就寝後に止める習慣があるなら、そのたびに水を捨てるのが本来の扱いです。

Q. シーズンオフはどう保管すればよいですか?

完全に乾かしてから仕舞ってください。濡れたまま箱に入れれば、次のシーズンに開けたときが最悪のニオイになります。

この構図はクローゼットや押し入れがカビ臭くなる理由と同じです。閉じた空間に湿ったものを入れる——それだけで条件が揃ってしまいます。

Q. 加湿器を使うと咳が出るのですが、関係ありますか?

医療機関に相談してください。加湿器内で増えたカビや菌を吸い込むことで起きる肺炎が知られており、「加湿器肺炎」と呼ばれることがあります。

この記事は手入れの方法を整理したものであり、症状の判断はできません。体調の不安がある場合は、自己判断で対処せず受診してください。

Q. 部屋全体が臭う気がします

加湿器のミストは部屋中に広がるため、発生源が1か所でも部屋全体が臭って感じられます。

ただし加湿器を止めてもニオイが残るなら、原因は別にあります。エアコンや収納など、湿気が溜まる場所から順に確認してください。

まとめ

  • まずフィルターを外して運転し、洗える部分か本体内部かを切り分ける
  • 白い固まりはクエン酸、においは重曹——相手が違う
  • 両方あるならクエン酸→よくすすぐ→重曹の順。混ぜない
  • 重曹は水1Lあたり約36g。量が必要
  • タンクの水は毎日交換。つぎ足しはしない
  • 使い終わったら水を抜いて乾かす
  • 洗ってもニオイが取れないならフィルターの交換時期

加湿器のニオイは、掃除の回数が足りなかった話とは限りませんでした。使う道具を取り違えていただけ、というほうが多いはずです。

そして、いちばん効くのは洗剤ではありません。毎日水を捨てて、乾かす。それだけで、菌が増える条件のほうが消えます。

参考にした情報

※本記事は公開されている情報をもとに整理したものです。お手入れの指定はメーカー・機種によって異なります。必ずお使いの製品の取扱説明書をご確認ください。健康に関わる不安がある場合は、医療機関にご相談ください。